サステナビリティ
トップメッセージ

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代表取締役社長 石切山 靖順
激動の時代に誕生したニッタには変化を成長に変える力がある。「SHIFT」には、ものづくりの情熱と未来へ挑む決意が込められています。代表取締役社長 石切山 靖順

「SHIFT」にかける想い

中長期経営計画「SHIFT2030」開始から4年、今期は第1フェーズの最終年という節目の年を迎えます。中長期経営計画の初年度から現在においては、COVID-19の世界的流行、ロシアによるウクライナ侵攻、中東情勢の混乱、さらには急激な円安の進行など、激動の時代が続いています。

「SHIFT」には、大変革の時代にひるむことなく、前進し続けていく決意が込められています。2030年に掲げる大きな目標を達成するには、時代の変化に向き合い、また自らが変化を生み出すイノベーターであり続けることが必要です。その覚悟がなければ、目標の達成やさらに未来へ向けた持続的成長は不可能であると考えます。

NITTAグループ理念「NITTAは動かす、未来へ導く製品で。世の中を前へ、そして人々を幸せに。」と掲げるように、私たちが創り出すさまざまな製品が社会を動かし、人々の幸せにつながること。それが、ニッタグループのものづくりへの想いであり、創業からの変わらない精神です。ニッタ創業期は、現代と同じく世の中は激動の時代でした。創業者の新田長次郎は、時代の大きな変革期において、常に変化する社会のニーズに応え、世の中に役立つ製品を創出することに挑み続けました。そして、新しい発明や製品をより良いものへと改良を重ねることで、それをさらに新たな技術へとつなげ、多様な製品や多角的な事業へと広げていきました。まさに、創業の精神「発明・改良・円満」の実践によって道を切り拓いてきたのです。時代の変化を自らの力に変える。その精神と行動力は、ニッタグループの未来を担う我々に継承されています。

ニッタグループは来年、創業140周年を迎えます。未来へ向け、150年、200年と続く企業であるために、ニッタグループは挑戦し続けます。「SHIFT2030」実現に向け、そして、ステークホルダーの皆様とともに豊かな未来、理想の世界の実現を目指して歩み続けます。今後ともより一層のご理解とご支援のほどお願い申し上げます。

2024年3月期は3年連続で過去最高売上を記録

2024年3月期は世界的な金融引き締めや中国経済の先行き懸念、長期化するロシアによるウクライナ侵攻、中東地域を巡る情勢の緊迫など、景気下振れリスクがあったものの、全体としては持ち直しの動きが継続しました。また国内経済については、物価上昇が続くものの、雇用や所得環境が改善したことにより、緩やかな回復基調となりました。

当社グループ製品の主要需要業界においては、自動車業界向けが回復基調となり、2024年3月期グループ売上高は前年度比微増により、3年連続で過去最高売上を更新しました。損益面では、高騰した原材料価格の販売価格への転嫁が進みましたが、半導体製造装置向け製品など高付加価値製品の売上低調の影響により、営業利益は減少となりました。また、経常利益は、営業利益の減少に加え、為替差益減少により減益となりました。前年度の収益低下の主たる要因となった半導体業界向け製品は、今年の後半から回復するものと予測しており、今期の収益改善に期待しています。

● 連結業績ハイライト
2023年
3月期 実績
2024年
3月期 実績
増 減
売上高(百万円) 88,000 88,609 +0.7%
営業利益(百万円) 4,989 4,421 -11.4%
経常利益(百万円) 12,900 12,007 -6.9%
親会社株主に帰属する当期純利益(百万円) 10,853 9,857 -9.2%
ROE(%) 8.8 7.3

今期は中長期経営計画フェーズ1の最終年度

中長期経営計画「SHIFT2030」は2030年を最終年とした10年計画で、フェーズを3つに分けています。フェーズ1は2022年3月期から2025年3月期の4年で、今期がフェーズ1の最終年となる区切りの1年になります。これまでのフェーズ1の進捗としては売上高、営業利益率、新製品売上比率、海外売上成長率など、ほぼ順調に推移してきたと判断しています。「SHIFT2030」はコロナ禍という非常に見通しが難しい経営環境の中で立てた経営計画ですが、フェーズ1の目標はぜひとも達成したいと考えています。そこでフェーズ1最終年度の鍵となるのが、昨年度の減収の要因となった半導体業界向け製品です。既に回復の傾向が見られ、今年の後半から大きく盛り返すことで、2025年3月期は計画通りにフェーズ1を締めくくることができると予測しています。

そして、今期は次年度からのフェーズ2に向けた準備を進めていく段階にきています。フェーズ2の売上目標は1,000億円です。これは、当社グループにとって達成すべき重要な目標です。「売上高1,000億円を超えると景色が変わる」というのが前社長の口癖でした。1,000億円企業にふさわしいガバナンスや社風など、ステージが一段階アップする、というものです。私自身、前社長の考えに全く同感で、何としてもフェーズ2の売上目標1,000億円は達成しなければならないと強く決意しています。そのためには、より大きなフィールドでの事業展開が不可欠で、重要な施策となるのがグローバル事業の更なる推進であると考えます。

【ビジョンステートメント(2030年のあるべき姿)】ものづくりを核としたシフトイノベーター SHIFT INNOVATOR cored around manufacturing

SHIFT 2030 SHIFT INNOVATOR cored around manufacturing

フェーズ2の売上目標1,000億円を視野にグローバル展開を推進

ニッタグループは事業の多角化によって成長を続けてきました。ベルト・ゴム事業やホース・チューブ事業をはじめ、さまざまな事業を海外展開していますが、ポートフォリオを見直す中で、海外拠点にはさらに成長が期待できる領域が多く残されていると捉えています。そこで2024年4月に設けた「グローバル推進室」を中心に、更なる海外事業の強化を推進していく計画です。ベルト・ゴム事業においてはいち早く海外事業が進展し、現在では海外13の国と地域で展開していますが、他の事業はまだ出遅れており、それだけ伸び代があると考えます。最も強化すべき地域としては、インドに注目しています。インドは現在急激にインフラ整備や経済発展が加速しています。以前から成長期待はあったものの、なかなか実現していませんでした。ところが昨年、私が5年ぶりにインドへ訪問した際、「これは大きなビジネスチャンスが来る」と確信しました。高速道路や車、高層ビルや質の高いインフラが増加し、大きく様変わりしはじめています。不動産価格も月単位で上昇するほどの急成長です。自動車はまだEVではなく内燃機関が主流であると分析しており、当社のベルト・ゴム事業、ホース・チューブ事業の拡大にも期待できる市場と見込んでいます。

過去を振り返ると、中国のビジネス拡大は若干出遅れたと思っています。もう少し早くに投資していれば、中国の成長に合わせて、もっと当社グループの事業も成長できたのではないかと。そのため、「インドでは同じ轍は踏まない」と決意しています。海外事業強化は冒険的なものではなく、また見込みで投資するものでもありません。中国での経験も活かし、地に足をつけて着実に進めていきます。そのための準備も既に整いはじめています。もちろんインド、中国だけでなく、アメリカもアジアも、全世界、全事業を広く見渡して取り組んでいく計画です。これらのグローバル展開が、フェーズ2の1,000億円達成の足掛かりになると考えます。

持続的成長、そして「SHIFT2030」実現へ向けた注力事業

フェーズ2の売上高1,000億円達成、その先にあるのが、中長期経営計画の最終目標であるフェーズ3、2030年の売上目標1,150億円+αです。この+αが新規事業の成長ということになります。現在、新規事業開発の先頭を走っているのが「Namd™」という炭素繊維を複合化するニッタ独自の新技術です。これは、2020年度の「先端材料技術協会」において、「新しいプロセスによる独創的な新製品」として製品・技術賞を獲得するなど、業界でも高く評価されています。既にスポーツ用途で採用いただき、製品化が進んでいますが、更なる目標としては、グローバル市場も視野に入れ、一般産業用の事業で展開していくことを見据えています。特許取得を伴った技術開発ができたことで、この技術の信頼性をさらに高めるために、「AS9100」(米国・英国・日本など8カ国のワーキンググループによって開発された航空宇宙業界のサプライチェーンにおける製品品質を確保するためのマネジメントシステム規格)を2025年度中に取得することを目指しています。CFRP事業の拡大には時間を要しますが、2030年の最終目標までには結果を出したいと考えています。

新規事業のもう一つは再生医療です。これも当社グループでは長年にわたって技術開発、事業開発に取り組んでいる分野になります。その再生医療に関連する「除染」分野で、クリーンエンジニアリング事業部が製品開発を進めているところです。この他、大阪大学を中心とする再生医療分野の産学協同の活動に、当社グループも積極的に参画するなど、新たな技術開発や関係性構築の種まきを行い、それを着実に育てていく段階にきています。

その他、市場の変化に適応した新製品の開発を加速させ、新しい市場や成長が期待される事業領域へ進出し、新事業創出を目指しています。その推進力となる「新事業探索チーム」の動きもさらに活発化しています。「新事業探索チーム」は発足して3年になりますが、約10年前から、新事業を興すための取り組みとして「ニッタイノベーションクルー」という活動を進めてきました。私は技術部門出身の人間で、新しい技術や製品の開発がいかに難しいかは、身を持って知っています。「新事業探索チーム」を以てしても結果がすぐに出せないというのは想定内ですが、そんな中でも、いくつかの面白い取り組みを進めています。その一つとしては、当社グループの森林資源を活用した新事業を開発段階で、その進捗を見守っているところです。北海道の森林は自然保護として非常に価値があり社会貢献になりますが、それだけでなく、製品開発や事業化できないかという想いがありました。それを「新事業探索チーム」が実現してくれることを期待しています。

創業者の理念を継承する環境貢献への取り組み

当社グループは、北海道に約6,700haの広大な森林を保有しています。これは、日本初となる伝動用革ベルトを開発する中で、革をなめすタンニンを採るために槲の木を求めて辿り着いた森です。創業者は槲の木を伐採した後に自然を元の姿に戻そうと「カラマツ」を植林しました。そして、伐採した木からベニヤ事業を展開するなど事業を多角化していきました。北海道の森林には、そういった創業の歴史や成長の軌跡が刻まれています。そのため、ニッタグループでは北海道の森林事業を「象徴事業」として位置づけ、守り抜き、育て続けていく考えです。

間伐や植林を計画的に実施することでCO₂の吸収量が年々増加しており、ESGやSDGsにも大きな貢献につながっています。環境保護に関するさまざまな指針やルールも日々変化するため、森林事業による社会への貢献度も変わってくるかもしれませんが、我々が取り組む姿勢や想いは一切変わることなく、継続していく方針です。森林保護のためにこつこつと取り組んでいることが、この度「生物多様性の保全」として評価され、環境省の自然共生サイト「30by30」に認定されるなど、社会の評価や企業価値向上につながっています。

また森林経営だけでなく、生産技術や工場管理の各工程で環境負荷を軽減するさまざまな取り組みを実施しています。CO₂排出量削減では、2013年度比マイナス46%を掲げ、日常の事業活動における削減活動や、再生エネルギーの導入・活用、新規設備投資案件での環境投資推進など、目に見える効果を意識し、取り組みを継続しています。また、国連グローバル・コンパクトやTCFDへの参画を通じて、グローバルレベルでの環境貢献を行うことが“未来に責任を持つ企業”であると考えています。

資本コストを重視したポートフォリオ最適化

持続的成長を果たすため、業績のトップライン、つまり売上高を伸ばすことに加え、収益性を向上させることで、そのリソースを成長分野や新規事業へかけることが、中長期にわたる持続的成長のための重要な戦略になります。

プライム市場に上場する企業としてPBR1.0倍は、超えていくべき指標だと強く認識しています。企業価値の向上と持続的成長のため、そして上場企業としての責務を果たすために、資本コストを意識したさまざまな取り組みを実施しています。特に注力するものとして、資本コストを上回るROICの達成に向けた経営の推進や、事業・製品ポートフォリオの最適化による資源再配分を進めています。成長が継続していない、または利益率の低い事業・製品に着目し、四半期ごとの戦略会議で、その事業や製品の改善点を討議しています。それは、持続的成長のための「選択と集中」として、事業の縮小あるいは製品の撤退も視野に入れたものになります。その中の事例として、クリーンエンジニアリング事業部の収益性改善に向けた戦略会議で徹底的に討議し、分析し、さまざまに改善策を講じ続けた結果、徐々に安定して収益が出るように改善されたことで、昨年度にはニッタグループの利益に大きく貢献する事業へと成長しています。また事業・製品ポートフォリオの最適化は、現時点で収益性に課題があったとしても、将来性を見込むものや、他の製品に関連している事業などを、いかに継続していくかという視点も重要です。各部門から理に適った計画や説明が示され、経営者として納得できるものであれば、事業の継続を判断していきます。

その他、資本コスト経営を重視した財務計画として、政策保有株式の縮減を図ることに加え、設備投資については引き続き業界動向・景気予測・投資効率などを総合的に勘案し、策定を行い、計画的に実施していきます。加えて、収益性向上への施策としては、原材料費の高騰・物流コストなどの増加に対して、メーカーとして打ち手を地道に重ねていくことが重要と考えます。そして、デジタルトランスフォーメーションを見据えたデータ活用体制の構築を着実かつ迅速に実行することと並行し、業務の進め方を自ら分析し、AIを活用した革新的な仕事の進め方にもチャレンジするなど、業務効率の改善・向上を推進していきます。

更なる未来への成長を目指して

ニッタグループが持続的成長を続けていくためには、ポートフォリオ最適化とともに、何に投資し、どこを成長させていくかが非常に重要です。事業や設備の投資はもちろん、やはり企業は人、人材にもっと投資していくべきだと考えています。これまで「海外トレーニー制度」を約10年にわたって実施しています。これは当社グループの海外拠点で、語学の習得と工場での研修を行う半年間のカリキュラムになります。帰国後は英語でプレゼンを実施し、どう成長し何を学んだのか、また何に感動したのかなどを発表してもらいます。皆の表情が見違えるようにイキイキとし、ひと目で成長していることが分かります。当社グループでは海外拠点や多角的な事業を、学びの場として活用することができます。「海外トレーニー制度」をはじめ、新事業や海外事業にチャレンジできる人材を育てるための活動には、さらに積極的に投資していく考えです。

また2024年4月からは、新しい人事制度をスタートさせています。「仕事基準によるメリハリのある処遇」「若手人材の早期登用」「チャレンジ行動・理念行動の推奨」「ライフスタイルに合わせた多様な働き方」など、社員が能力や特性を活かしてイキイキと働くことができる環境づくりを目指しています。最も期待していることは、固定概念にとらわれず、常に新しいやり方を自らが考えて、スピーディに行動してくれる姿です。

当社グループは、創業から現在に至るまで経営の多角化とグローバル展開によって成長を続けてきました。ニッタグループが未来に向けて持続的成長を果たしていくためには、ニッタ創業期から受け継ぐ、発想力、挑戦意欲、諦めない強い意志を備えた人材が必要です。そのために、人事制度や職場環境をよりフレキシブルにして、多様な人材、さまざまな価値観やキャリアを持つ人材が活躍できる体制や環境整備を進めていきます。

来年迎える創業140周年、そして更なる未来へと成長を続けるためには、グローバル市場や未知なる事業領域など、これまで以上に壮大なフィールドを目指していかなければなりません。「SHIFT2030」実現は、そのための通過点であり、ゴールではありません。目標達成に満足した時点で、衰退が始まります。創業150年も200年も成長を続けること。それが私たちの真の目標です。そして、我々の思い描く成長とはニッタグループだけの成長ではありません。より複雑で変化の激しい時代だからこそ、全てのステークホルダーとしっかりと手を取り合い、想いや力を結集することで、はじめて持続的成長が成し遂げられます。全ての人々と、そして社会と共に成長を続けていくこと。それこそが、創業の精神「円満」な社会の実現につながるものと確信しています。

今後とも、お取引先様やお客様との対話をより一層大切にして参ります。そのためには、本統合報告書をはじめ、皆様に情報発信を行っていくこと、密なコミュニケーションを図ることが大切だと考えます。ニッタグループの強みを、そして想いや価値をお伝えできるよう努めて参ります。